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新会社法(3)特例有限会社として存続した場合の注意点

寺本法律会計事務所
弁護士 飯塚 美葉

 前回は、現在の有限会社が、株式会社に移行する場合の手続について要点をご説明しました。
法改正により、有限会社がなくなって株式会社になる、と言われていますが、「では会社法が施行されたら次の日から看板や名刺を株式会社にしてもいいのか」というと、そうではありません。
現在の有限会社を株式会社に変えるには、商号を「有限会社A」から「株式会社A」に変えて必要な登記手続をし、また、新しい会社法の規定に合わせて、定款の一部を変更する必要があります。
もし、このような登記などの手続をとらない場合は、現在の有限会社は、「特例有限会社」として存続することとされています。逆に言えば、特例有限会社として存続するのであれば、特に登記などの手続をとる必要はないということです。
「特例有限会社」に関する規定は、有限会社法の廃止に伴う経過措置として、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」という長い名前の法律に定められています(いわゆる「整備法」)。
そこで今回は、特例有限会社として存続した場合の注意点についてご説明します。

   まず、会社の商号、名前ですが、今までどおり「有限会社A 」と名乗ることができます(整備法3条1項・2項)。

 「特例有限会社A」というように、わざわざ「特例」をつける必要はありませんが、手続をしないまま勝手に「株式会社A」と名乗ることはできませんので注意が必要です。
ところで、特例有限会社は、名前はこのとおり有限会社なのですが、法律上の位置づけとしては「会社法の規定による株式会社として存続するものとする」とされています(整備法2条1項)。つまり、特例有限会社は、「法律的な位置づけは株式会社だが、名前は有限会社」という、ちょっと不思議な形態の会社なのです。
そのため、会社法施行後は、会社の名前は有限会社でも、今まで「社員」と言っていたものは「株主」に、「持分」は「株式」に、「出資一口」は「一株」という言い方にそれぞれ変わります(整備法2条2項)。とはいえ、これらは、株式会社になったことで呼び方が変わるだけで、細かい制度的な違いは別として、機能的にはほぼ同じものと考えていただいてかまいません。

   役員構成については、株式会社に移行した場合は、取締役会を設けることも可能になりますが、特例有限会社の場合は、取締役会を置くことはできません。今までどおり、取締役と監査役のみいうことになります(整備法17条)。

 ただ、従前のように、複数の取締役を置くことは可能で、会社の業務執行に関しては原則として取締役の過半数で決定します。
また、代表取締役を置くこともこれまでと同じく可能で、代表取締役がいる場合は代表取締役が、代表取締役がいない場合は各取締役が、会社の代表者となります。また、今回、新会社法で「会計参与」という制度が設けられました。税理士または公認会計士を、会計参与として、会社の役員と同様に位置づけるものです。
会計参与を置くことによって、計算書類の内容についての信頼が高まるメリットが期待されていますが、特例有限会社は、会計参与を置くことはできません(整備法17条)。

   株式会社では、取締役・監査役の任期がそれぞれ法律上2年・4年と決まっています。譲渡制限会社では、定款で規定をおくことによってどちらも10年までは延長できますが、任期が来たら改めて役員の選任をし、登記をしなくてはなりません(会社法332条、336条)。

 しかし、特例有限会社ではこれらの規定は適用されないこととなっていますので、今までの有限会社と同様、特に法律上任期の定めはありません(整備法18条)。
このことと関連して、実務で問題になるのは、「みなし解散」の規定です。株式会社では、最長でも10年ごとに役員が交代し、役員変更の登記をすることになります。もちろん、前と同じ役員が続投することは可能ですが、その場合も役員の選任と登記の手続は必要です。その一方で、12年間何の登記もせずに放置していると、その会社は解散したものとみなされて登記簿を閉鎖されてしまいます(会社法472条)。
しかし、有限会社には役員の任期がなく、長期間何の登記も行わない場合があるため、このような「みなし解散」の制度はありません(整備法32条)。

   現行の有限会社では、社員が、他の社員以外の部外者に持分を譲渡するには、社員総会の承認が必要とされていました(有限会社法19条)。

 他方、株式会社には、株式を第三者に譲渡する場合に会社の承認を要する譲渡制限会社と、株式を自由に譲渡できる公開会社とがありますが、特例有限会社は、すべて譲渡制限会社として扱われます。
したがって、他の株主以外の部外者に株式を譲渡するには、会社の承認が必要です。ただし、細かいことですが、これまで社員総会の承認事項だったものが、今後は、会社(つまり取締役会のない会社では取締役の過半数)の承認によることになりました。

   株式会社では、会社の規模・形態にかかわらず、官報などで決算公告をすることが義務づけられています(会社法440条)。しかし、有限会社ではこれまで決算公告の義務はなかったことから、特例有限会社に関しても、同様の扱いを続けるため、会社法440条は適用されないことになりましたので、決算公告をする必要はありません(整備法28条)。

 以上、特例有限会社のポイントとなる点をいくつかあげてみました。このほかにも、特例有限会社には、株主が帳簿閲覧権や総会招集権を行使する際の要件や、合併などの特別決議の要件について、新会社法の規定を適用せずに、これまでの有限会社と同様の扱いになるような特別の規定が、整備法で設けられています。特例有限会社では、新たな登記も必要なく、これまでの有限会社と制度的にもほぼ同じ扱いができるので、しばらくはこの形で様子を見るのも一法です。ただ、特例有限会社は、制度としては経過措置的な位置づけのもので、会計参与など、いくつかの新しい制度は利用できませんので、会社の実情に応じて、どちらかの会社形態を選択する必要があります。

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