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新会社法(4) 社債について

寺本法律会計事務所
弁護士 飯塚 美葉

 今回は、社債について簡単な概略をご説明します。なお、社債は、これまで株式会社しか発行できないとされていましたが、本年5月より施行される会社法により、有限会社や、合名会社、合資会社、そして新しく創設される合同会社でも発行することができるようになります。

■社債とは

 社債とは、会社が資金調達を行なうときに、小口の証券を発行して買受けてもらい、多くの人から少しずつ資金を提供してもらう仕組みです。
例えば1,000万円で工場を建てたいときに、1,000万円を金融機関や知人から借りることもできますが、100万円を10人の人から借りることもできます。そして、この場合に、単純に10人の人と、100万円ずつの借入契約をするのではなくて、100万円の社債を10口発行して、10人の人に引き受けてもらうこともできるのです。
株式会社ならば、この場合、1,000万円を増資して株式を発行し、出資を受けることによって資金調達をすることもできます。株券を発行して引き受けてもらうことと、社債を発行してお金を引き受けてもらうことは、現象としてはよく似ているので、両方の性質をあわせた「転換社債」などと呼ばれるものが発行されることもあり、報道でもときどき話題になります。ただし、法的には、株式会社の株式や有限会社の出資持分が会社の持分であるのに対し、社債は会社に対する債権、会社から見れば借入金となります。
したがって、株式や出資持分は、総会で議決権を行使することができますが、社債にはそのような機能はありません。また、株式が会社の業績にしたがって配当を受ける一方、社債は決まった利息を受け取ります。破産などの場合には、社債を持っている人は、債権者として株主より有利な扱いを受けます。

■社債のメリット

 社債は小口に分けられているので、社債を買う側にとっても、資金を提供しやすくなります。先の例で言えば、1,000万円貸してくれといわれてぽんと出せる人は少なくても、100万円の社債を買ってくれといわれたら、買ってくれる人がいるかもしれません。
また、親戚や知人などの個人から、通常の借入をした場合、債権者に支払われる利息は雑所得となるため、その人の他の所得と合わせて累進課税(所得税で最大37パーセント)の対象となりますが、社債の利息は源泉分離課税(一律20パーセント)となり、人によっては節税効果があります。
会社にとっては、取引先や顧客、従業員、知人など、広い範囲の人に買ってもらうことで、会社の業務に対する関心を強めてもらい、周囲の人たちとの結びつきを強める効果が期待できますし、会社の信用も高まることにつながります。

■少人数私募債(縁故債)

 社債を発行するには、原則として、金融機関を社債管理者とする必要があり、手数料の支払等を考えると、ある程度大規模な資金調達でないと、メリットがありませんでした。(なお、社債管理者になれるのは、これまで銀行や信託会社等のみとされていましたが、新会社法では、信用金庫や農林中央金庫、農業協同組合等も加えられています。)
しかし、社債の口数が50未満の場合などには、社債管理者を置かなくてもよいとされており、中小企業にとってはこちらが現実的です(少人数私募債)。
なお、社債には、会社法とは別に証券取引法の規制もあり、勧誘の相手が50名を超えるときには有価証券としての届出義務等が生じますので、私募債とするためには、最終的な社債の引受人が50人未満であるとともに、勧誘の相手方も50人未満とすべきことに注意が必要です。

■社債の発行と管理

 社債を発行する際は、社債の総額、社債一口の金額、払込み期日、社債の利率、償還の期限と方法などの「募集事項」を会社で決定します。
社債券(株式における株券に相当するもの)は、発行するかしないかを選ぶことができます。但し、同じ条件で発行した社債について、Aさんには社債券を発行し、Bさんには発行しないというような扱いはできず、同じ種類の社債は扱いも一律にしなければなりません。
なお、社債は原則として無担保です。社債を引き受けた人は、社債を自由に譲渡できるため、社債権者は多数かつ変動することが前提とされており、個々の社債権者との間で担保を設定することはできません。社債に担保を付けるには、信託会社に担保財産を信託するなど、特別な手続が必要となります。
社債を発行した会社は、社債原簿を作成して会社に保存し、社債権者の名称や住所などを管理しなければなりません。

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