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「食べられないところ」が大事

有限会社良品工房
白田典子

 はじめまして!白田(はくた)です。どうぞよろしくお願いします。「マーケティングについて」との依頼ですが、大根1本も作ることのできない1消費者としての立場から、事例を踏まえてできるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。

■気持ちを伝えるアンケート

 5年ほど前から「いいものプロジェクト」なるものを主宰している。
「いいものプロジェクト」では、実食・実感モニタリングと称し、主婦を中心としたモニターさんに、食品のアンケートをお願いしている。「実食」とは、自宅の台所で実際に調理して、家族と一緒に食べて、そして片付けてみてという一連の流れをふだんの生活の中で経験してもらうという意味。会議室のなかで調理済みの完成品を食べ、感想を言ってもらうといった類の試食会とは違い、イキイキとした生活実感に基づく感想・意見が集まってくる。
「実感」とは、自分の気持ちを語ってもらうこと。一般的なアンケートでは、あらかじめ質問項目が設定されており、ご丁寧に「よい」「ふつう」「悪い」などといった選択肢まで用意されていることが多い。しかし、味についての評価はもちろん、価格についても高い・安いといった基準は、人によってまちまちだ。このため、選択肢を設けての評価はナンセンスだと考え、アンケートの大部分を自分の言葉で語ることができるフリースペースにしている。
「いいものプロジェクト」では、アンケート結果をデータとして捉えるのではなく、つくり手に買い手の気持ちを伝えるためのものと位置づけているのである。
そしてアンケートの最後には「この商品を今後も続けて買いたいか、買いたくないか」を尋ね、7割以上の「これなら買いたい」という支持があった商品には目印として「いいものシール」を貼っている。「いいもの」に認定される確率は4割以下となかなか厳しい。

■「おいしいけど、これはプリンじゃない」

 買い手は味と価格だけで商品を選んでいるのではない。しごく当然のことのように聞こえるかもしれないが、これがなかなか実際の商品づくりの現場では理解されていない。
「うちはこんなに手をかけて商品をつくっています」、「苦労して無添加の商品を開発しました」、「国産の材料だけを使っています」といった声をつくり手の方からよく聞く。なるほどすごいな、と感心するし、その苦労には頭が下がる思いである。
ところが、だ。そのモノ(中身)づくりにかける情熱に比べ、「食べられないところ」=ネーミング、パッケージなどに関する努力は後回しになりがちである。
「焼き芋プリン」という名前の商品のモニタリングを実施したことがある。加賀伝統野菜の五郎島金時というサツマイモをたっぷり使ったという自慢の商品。味は確かにおいしかった。価格も手ごろだ。しかし残念ながらこの商品、7割の支持を得ることができなかった。フリースペースに書かれたコメントを読んでいくと、こんな言葉が綴られていた。「おいしいけれどもこれはプリンの食感じゃない」「サツマイモの粒々が気になって、プリンという感じではなかった」
なるほど、「プリン」という商品名を聞いて、モニターさんたちの頭のなかには、食べる前からツルンとした食感のイメージができあがっていたに違いない。買い手はそのようなふだん食べているもののイメージの延長で、とびっきりおいしいものをよしとする。だから粒々の固形物が入っていた時点で「プリン」ではないのだ。もし、この商品が「焼き芋ようかん」だったとしたら、もっと多くのモニターさんの支持を得られたかもしれない。

■「いいものをつくれば売れる」は勘違い

 味や食感以外にも、ネーミングから値段を想像してしまう例もある。岩手県の商品で「480円の牛丼」のコメントを求められたことがあるが、吉野家の牛丼の価格イメージが強いために、どうしても「高い」という印象を与えてしまったようだ。たとえばこれを「すき焼き丼」という名前に変えたら、おいしければ480円でも許せてしまうのではないか。
また、圧搾製法の国産ひまわりオイルは、通常298円くらいで売っている普通のてんぷら油のようなボトルに入っていた。価格は1050円だったのだが、ボトルを見た瞬間に「高い!」と思ってしまった。
そこで試しにオリーブオイルみたいなスマートな形のボトルに入れ替えてみると、それくらいの値段はするかも、と思えるような商品になった。
私たちの頭のなかには、「こんなボトルに入った油は、せいぜい298円」というイメージができあがっている。それを無視しては、いくら商品の中身がよくても、そのよさを伝えることはできないのだ。
今の時代、「こだわり」は溢れていて、おいしいのは当たり前。厳しいようだけれども、もはや中身がいいだけでは買い手の心は動かされない。
買い手にとって、中身がいいのは当たり前だから、「いいものをつくれば売れる」というのは、大きな勘違い。商品の価値を伝えるためには、中身よりもむしろ「食べられないところ」が大事。ネーミングやパッケージデザイン、表示ラベルやPOPに書いてあること、買い手にとってはすべてが商品なのだ。

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