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気持ちはいつも「相対比較」

有限会社良品工房
白田典子

 私が5年前から主宰している「いいものプロジェクト」では、実食・実感モニタリングと称し、モニターさんに食品のアンケートをお願いしている。
「実食」とは、台所で実際に使って、食卓で食べて、そして片付けてみてという一連のことをふだんの生活の中で経験してもらうという意味。いわばライフテストだ。
「実感」は、自分の気持ちを自分の言葉で語ってもらえるように、アンケートの大部分はフリーで手書きのスペースになっている。ひとつの商品についていくつかの質問を用意してはいるが、最後には必ず「この商品を今後も続けて買いたいか、買いたくないか」を尋ねている。
アンケートの中で記入スペースを一番大きくとっているのは、「実際に食べた感想をなるべく詳しくお聞かせください」という質問の部分。ここには、食卓で会話された家族のそのままのコメントやふだん買って使っているものとの違いが明確に具体的にさりげなく書いてあり、非常に興味深い。
たとえば、こんなコメント。
「今までの練りゴマより柔らかいので、驚いた」
「これまで食べていた素麺は油のにおいがしたが、これは小麦粉のかおりがした」
「たいていの乾燥わかめは汁物に入れたときに歯ごたえがなくなってしまうが、これは最後までしっかりとした食感があり、よかった」
「こんなにひじきの戻りが早い混ぜご飯の素は初めて」
「さらっとしていて家でつくるジャムみたいですね。ヨーグルトにひとさじ混ぜたら、カップのフルーツヨーグルトよりずっとおいしかった」
使った人でなければわからない「相対比較」がちゃんとできている。

この質問の前には、「ふだん購入して食べている○○はなんですか?」である。普段食べているものと比べてどうなのかが自然に実感として出てくるから、ここではいったいどんなものと比べてこの商品の評価をしているのかがわかり、つくり手であるメーカー側の参考になる。

通常であれば、甘さ、塩加減、食感などなど、つくる側の仮説に基づいた質問項目が設定されており、しかも「良い」「普通」「悪い」という選択肢までご丁寧に用意されていたりする。しかし、人によって「普通」の基準はまちまちである。だから選択肢を設けての味の評価などそもそもナンセンスだと考え、自分の言葉で自分の気持ちが語れるフリースペースにしている。
そう、「いいものプロジェクト」では、データとしてのアンケートではなく、気持ちを伝えるアンケートと位置づけている。

先日、モニターさんから返送されてきたアンケートと一緒にこんな手紙が入っていた。
「友人宅でのこと。友人が登録している調査会社からアンケートが届いていて、ちょうど私は彼女がそれに記入しているところに居合わせました。彼女は途中とても悩んでいたようなので『どうしたの?』と声をかけると、『う〜ん、困った。良いでも普通でもないのよね。どこに○をつければいいか悩むなあ』と言いました。私は『いいものプロジェクト』のアンケートでこのように困ったことはないので、ちょっと驚きでした」
この形式のアンケートなら、答えやすいだろうと思って調査する側は作成しているものと思うが、本当に真剣に答えたいと思っている人は、実は悩んでいたり、言いたいことが言えない欲求不満になっていたりしているのである。実はモニターが「答えやすい」のではなくデータそして「集計しやすい」からではないだろうか。

「相対比較」と先述したが、モニタリングの実感のみならず、ふだんの買い物でも同じことがいえる。買い物をするときは必ず「これとあれではどこがどう違うのか」を常に考えながら、商品を比べ、選んでいる。
「この200円の桃とあの300円の桃との違いは?」
「ビタミンE強化卵と自然放牧卵とエサにこだわった卵の違いは?」
「国産大豆使用、天然にがり使用と書かれたこのお豆腐とあのお豆腐の違いは?」

棚に並んだ商品を手にとってカゴに入れる前に悩むことがしばしばあるが、それはいつも自然と「相対比較」しているからだ。買い物もそうだが、考えてみれば毎日の生活は「相対比較」で成り立っているようなものだ。学校を選ぶにも、家を買うにも、就職先を決めるのも、結婚相手を選ぶのも、タクシーに乗るか電車に乗るか決めるのも、すべて人生「相対比較」。

つくり手と買い手の間には売り手という小売店の存在がある。ここできっちり仕事をしてもらい、私たちが「相対比較」しやすくなる商品選びができるようになると、買い物はもっと楽しくなるだろうし、お店はただの「置き場」から本当の「売り場」に変わることができるのではないだろうか。
つくる側も、他の商品との違いを買い手にわかりやすく伝えることがポイントだということを忘れてはならない。

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