有限会社 真栄農産(鳥取県倉吉市)
代表取締役 藤井一良さん(56歳)
■米粉のパンとうどんで経営安定
藤井一良さん |
鳥取県中央部、JR山陰本線・倉吉駅から南西へ車で30分足らずの旧東伯郡関金町に(有)真栄農産が誕生したのは1994年5月。「米づくりに適した」土地柄を活かし、水稲生産、米とその関連商品の加工・販売、農作業受託等を3本の柱にしている。
本年産の場合で水稲作の自己経営分は21ha。コシヒカリが90%、ひとめぼれが10%の割合で作付けられている。ここ数年、生産した米の40%は消費者に直販され、50%が地元の病院等の大口顧客に供給されてきた。今年も同様の出荷配分になる見通しで、消費者直販分の半分は倉吉近辺に、半分は首都圏・近畿圏向けだ。
受託作業の規模は延べ面積で45〜50haに及ぶ。基幹3作業と乾燥調製を請負い、乾燥機も42石×4基と完備している。調製は玄米段階まで。真栄農産では近年、大口顧客の数とその注文量の増加に伴い、自己経営分だけではタマがショートし、取引対応が難しくなるケースも間々発生する。こうした場合には委託者がJAに持ち込んだ玄米ベースのものを買い取って間に合わせるが、本来が作業受託して自らがつくった米である。「袋を見れば判るので安心して出す」。米関連の加工といえば普通なら思い浮かぶのはモチだが、真栄農産ではパンとうどん、それにかきもちである。いわゆる米粉パンを地元のパン屋と共同開発し、うどんも山口県内のメーカーとタイアップして販売している。両者ともに外部委託加工となると利幅が小さくなるような気がするが、それよりも「避けなければならなかったのは加工施設・機械等に対する過大な設備投資」であった。
米の消費拡大という国策は国策として、補助金を得ながら一勝負するというのではなく、経営安定に資する事業部門を確実に育てていくということなのであろう。「大儲けはしなくとも、小儲けぐらいはねっ(笑)」との述懐がそれを雄弁に物語っている。ちなみに加工に使うのはコシヒカリとひとめぼれのブレンド米で、しかも2番米がほとんど。"くず米"などと言う前に「価格の低い米にどうやって付加価値をつけるか」腐心した。
スタッフは妻を含む女性が3人に、男性が1人。県内の法人仲間からは「あそこは奥さんをはじめ、女性がしっかりしていて、藤井さんは尻を突っつかれているんだ(笑)」と羨望の声も聞こえてくる。経営者はコントロールするばかりでなく、時には周囲からコントロール"される"ことも大切だということなのであろう。
『ファッションファーム』
に込めたものは… |
直販は法人化の以前からで、自らその促進に当たってきた。しかし最近はほとんどセールスを行わない。「有り難いのは口コミ」。生産者の顔が見え、つくる圃場も見られるのであるから、病院関係者など顧客筋は厚い信頼を寄せ、こうした人々からの要請を受ける形でイチゴ栽培も開始した。土耕のハウス栽培でまだ規模こそ小さいが、伝統の二十世紀梨、地域で盛んになっているネギ、春の彼岸をターゲットとするトルコギキョウなどと同様に今後伸ばしていきたいアイテムだ。
6月22日、日本農業法人協会総会で中国ブロック選出の理事に就任した。農業法人組織の立ち上げに草創期から携わってきたのは「農業・農村に係る制度・法律を大幅に変革しなければならない状況であるにもかかわらず、県レベルではどうすることもできないと感じていたから」。第一線の現場からの声を汲み上げて、それらを中央レベルで反映させていく組織が必要というのである。徐々にではあるが、制度・法律も変わりつつあるが、「十分とはいえず、まだまだやるべきことが多い」と思う。
昨年、腰を痛め20日ほど入院した。その間、代わって農作業を担ってくれたのは2人の子息。公共交通機関に勤務する長男(34)、美容師の次男(28)は共に市内に在住している。自身が「28歳になるまで好きなことをやらせてもらったので、まだ2人に家業の後継を持ち出す気はない」が、それにしても「補って余りある仕事ぶりだった」と目を細め、「これならば予定通り、65歳でのリタイアも問題ないだろう」とも。次男だけでなく、実弟もオーストリアで彫刻家として創作にいそしんでおり、ハイセンスの持ち主が周囲には多い。だからという訳でもないが、社名には『ファッションファーム』という字句をかぶらせている。もちろん時の流れに遅れない農業、最先端を行く経営をめざそうとしてのことだが…。
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