トップページ > 農業法人について > 農業法人経営情報 > 有限会社 藤岡農産 藤岡茂憲さん











 

有限会社 藤岡農産 藤岡茂憲さん

有限会社 藤岡農産(秋田県北秋田市)
代表取締役 藤岡茂憲さん(53歳)

■奮起しよう、東北・北海道の経営者たちよ!

写真1
藤岡茂憲さん

 事業の中心は米。その99%があきたこまちで、2005年産では35ha近く作付けた。しかしこれらを目一杯収穫できたとしても、直販で取引先に供給する量の3分の2程度にしかならない。残る3分の1については「近隣の気心知れた農家、それも良い仕事をしている農家」から仕入れ、対応する状況がしばらく続いている。

米に係る作業受託規模も大きく、育苗から耕起・代掻き、田植え、防除、稲刈り、乾燥調製まで、全体で50ha相当に及ぶ。しかし年を追うごとに減少しており、逆に全面受託が増えている。これは高齢者世帯など米づくりから撤退・断念する農家が激増していることによるものだ。経営だけ考えれば「部分受託の方が金になるし、リスクも少ないが、そうばかりも言っていられない」。地域農業の将来を考えると全面委託にも応じざるを得ず、それができるのも「全量を直販しているからに他ならない」。

直販を開始したのは法人化に先立つおよそ10年前。旧食管法の特栽米制度を活用して手掛けたが、ちょうどあきたこまちはブランドとしての地位を固め出していく。「ネーミングが受けたのだろうか」。農協出荷でも60kg当たり2万2000−3000円になったが、「これが長くは続くとは思えなかった」。あきたこまちの栽培面積が全国的に急増していたためであり、価格水準の維持には強い疑問と不安を感じた。転機となったのは1993年の大凶作。直販の本格化を決意し、東京をターゲットに自ら販路拡大に乗り出していった。

事務所のデスクの後ろに貼られているのは都内の中心部、JR山手線がそっくり収まった地図である。そこには納入先ごとに色分けされたピンが刺さっており、振り向けばいつでも取引概容を一覧することができる。従業員6人のうちの1人は営業のスペシャリストで東京に常駐する。都合1000戸を超える一般消費者もさることながら、拡販で力点を置くのは飲食店等の業務用顧客。相手の食材への理解とこだわりも確かに大事だが、狙うのはズバリ「客単価の高い店」である。

写真2
東京市場を一覧する地図を背に

 一般家庭では付き合いが10年を越すケースもあるが、それが長くなれば次第に注文の間隔は空いていく。小家族化が進み、年齢を重ねれば消費量が下がり、食が細くなるのも致し方ないことだが、だからといって若い世代が米離れしたとも思えない。「要は米を研ぎ、炊くのが面倒なだけで、故に多少は奮発しても『あそこは美味しい』と感じる店には通う」。そこで「ある程度の水準に達した飲食店に納入することが、販路の安定確保に繋がる」と考えた。したがってフランチャイズ、チェーン展開する飲食店等は拡販の対象に位置づけていない。また、東京に営業の専従員を置くことについては今にして思うと「賭けに近い決断であった」。それでも自分の背中を押したのは、日本の農業が生産技術では世界のトップクラスにあっても、事、営業となると相当に劣っているという状況だ。「一農家に過ぎないが、手を拱いていてはならない」という気持ちが常駐化に導いた。

少年時代に熱中したのは山登り。しかし近在の白神山地や八甲田山ぐらいでは食い足りない。どうしても岩場がやりたくて長野に移住し、4−5年、上高地で板前をしながら北アルプスに挑み続けた。その後、2年を費やして日本一周の旅に出る。「車では早過ぎるし、自転車ではしんどい。そこで耕耘機にした」。幌付きのトレーラーを引き、各地でアルバイトをしながらの旅だ。最も長く滞在したのは北海道の利尻島で、およそ8ヶ月。そこで見たのは「開拓者精神であり、それは東北地方で育った自分にはないものであった」。と同時に「考えよう、やりようによっては農業も面白くなる」ということに気づいた。

そこで帰郷。農業を継ぐというのには家族がビックリしたが、「まだ40台半ばだった父を農業からリタイアさせ、建設会社に転職させた」のにはもっと驚いた。理由は「家の中に"社長"は2人も要らないと思ったから」。現在では父は年金を受給する年代となった。「農業者年金ではなく、厚生年金なのだからずうっと良かったのでは?」(笑)とは、決して憎まれ口だけでもなさそうだ。

今年6月、日本農業法人協会の理事に選任された。実際の農業経営と農政の方向が「なかなか一致しないことに長い間苛立ちさえ覚えていた」が、最近、若い世代の行政関係者と話をしていると「合致できる機運が徐々に芽生えてきているようで期待するところは大きい」。

組織力学という点からは「東北・北海道の経営者には一層の奮起を促したい」。会合等で発言する西日本関係者には「実際にやっていることの3倍ぐらいも話しているのではないか(笑)と感じることが多々ある。それに比べてわが方は逆に3分の1程度しか言わないおとなしさ」。これでは組織全体の活発化・発展は望めないのであり、「自らも積極的に発言していこう」と考えている。

©日本農業法人協会