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農事組合法人 荒城営農組合 田中利博さん

農事組合法人 荒城営農組合(岐阜県高山市)
代表理事 田中利博さん(57歳)

■日本最大の高山市でビッグな経営

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田中利博さん

 今年2月1日、在住する旧吉城郡国府町は高山市と合併。新市は東西81km、南北55kmに広がり、2178km2と日本一の面積を誇るが、新生高山市同様にビッグなのが荒城営農組合である。

利用権設定分だけでも45haで、部分受託面積を加えると100haに達する。一体何戸ぐらいから委託されているのか、と問うても「さあって?どのくらいかなあ」と。組合名の由来、荒城の“郷”が150戸で、その8割近くから水田を預かっているのだから「11集落にまたがる120戸」との答が出るまでにしばらく時間を要してしまうほどだ。

一帯は標高560mの盆地で、圃場は荒城川沿いに展開しているが、乗鞍岳からの雪解け水が注ぎ込まないことが幸いして水温は比較的高い。加えて冷涼で風通しの良い地形が味方し、防除は近隣平地の半分以下で足り、良質米生産に長い歴史を刻んできた。

30数年前、就農した頃は稲作1haと野菜づくりの複合経営であった。今でも同級生の相当数が在住している通り、旧国府町が住みやすい環境であることに間違いはない。しかし就農しているのは自身を含めて数人だけで、高度成長とともに農業から離れ、サラリーマンに転じる傾向が地区でも顕著になる。この結果、せっかく結成した地域営農集団による集落営農の継続が困難になっていく。農閑期だけの会社勤めという訳にはいかなくなり、1人離れ、2人抜けるという状況が続いたのである。そこで10年前、荒城営農組合を創立した。

現在は構成員3人と従業員1人の体制。区分された圃場では、始めにコシヒカリ、ミネアサヒ等のうるち米や酒米、餅米等が作付けられ、その後大麦、そばと続く、2年3作のブロック・ローテーションが確立されている。圃場条件だが、平成に入ってから再整備事業が実施されたことから、1枚当たりで20〜30haと決して悪くない。課題は田植えおよび収穫時における労働力の配分・調整。本年産ではコシと餅、各2.5haずつを直播きしたが、「来年は全体の半分程度にまで増やすことも考えており」、田植え時については大幅に改善される見込みだ。なお、生産される米の80%はJAに出荷されており、残りが「年貢」(=地代としての物納)と卸業者への販売に充てられる。

平均価格は60kg当たりで1万6000〜6500円。「下がるとは思っていたし、これからもまだ下がるだろう。覚悟はできている。当面は利幅が薄くとも量でカバーしていこうと考えている」。現在の構成員当たりの利用権設定面積は150haだが、経営を維持していくためには「これぐらいの水準がギリギリ」。今後さらに20〜30ha程度の経営面積増加が見込まれている。

岐阜県農業法人協会会長を務め、今年6月日本農業法人協会の理事に選任された。「法人組織に加盟することのメリットが経営者に見えにくいのが現状だが、一方で農政に対する政策提言等を通じて行政を動かすだけの力をつけているのも事実である」。また組織としてさまざまな課題や問題に機敏に対応することが求められており、それには「土地利用型、畜産、園芸等、作物別にでも区分けして意見・要望を素早く汲み上げられる体制をつくることも考えるべきだ」。

1980年代半ばにはJA青年組織で全国副委員長も務め、農政運動への関わりは長い。懸案の経営安定対策についていえば「行政が護送船団方式、バラマキ農政からの転換を図ろうとしているのは評価できる」。ただ、担い手を育てようとするならば「それなりのバック・アップが欠かせないのであって、『担い手になってくれ?』とハッパをかけるだけでは事は進まない」。また担い手に農地を集積しようとするならば「離農者から農林公庫なりが農地を買い取り、それを貸し付け、また将来的には経営に譲渡するなど、もっと工夫があってもいい筈」。30−50年の償還となれば、「世代を跨いでの経営展望が拓かれる。そうした点でEUの担い手確保政策から学ぶべきは多い」。そして、肝心なのは「思い切った発想の転換」である。

「わからないのは品目横断政策が何故に経営安定に繋がるのかという点」。また高名な学者の言ではないが、「霞ヶ関から出た政策が大手町経由、永田町を回ってくると、本来の趣旨が変わってしまうというようなことは、もう繰り返すべきではない」。

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